フレンチレストランの利用の仕方

ここでは予約から出店まで、フレンチレストランを利用する上で知っておいた方が良い基礎知識をまとめています。
飲物に関しての基礎知識は、フレンチレストランの飲み物について を参照してください。
フランス料理は歴史的には王侯貴族の料理が革命によって一般市民階級に普及してきたものです。
素晴らしい思い出を作るためにも、ドレスアップして優雅なひとときを楽しみましょう。


予約する

フレンチレストランの場合、必ず予約が必要と考えていた方が良いでしょう。気軽なビストロの場合でも、人気店の場合席を確保しておかないと、門前払いになる恐れがあります。電話一本かければすむ話なので、大した手間ではありません。
予約は遅くても前日までにするのが基本です。これはレストランの材料の仕込みを配慮しなければならないからです。ただある程度材料の余裕はあるはずなので、空席があればディナーなら当日の午前中でもOKの場合もあります。このあたりはレストランによって異なります。電話をかける時はレストランの営業時間も考慮して、手が空いてそうな14:30〜17:00/21:00〜22:30頃にかけた方が良いでしょう。その方が丁寧な応対になるはずですし、特別な依頼もしやすくなります。

予約時に伝える最小限の情報としては、利用日時、利用人数、連絡先の電話番号ですが、席の位置の希望もあれば伝えてみましょう。ただ席の位置は原則的にレストランが決める事なので、希望が通らないといっても文句は言えません。勿論席に余裕があれば、ある程度の配慮をしてくれると思います。
また利用当日の料理で特に希望があれば、問合せしてみましょう。予約時に伝えないと食材の関係で食べられない料理(例えば、野生の食材のジビエなど)やシェフのスペシャリテのコース料理もあります。また会食などで予め当日の料理を知りたい場合は、大半のレストランではメニューをFAXしてくれます。ワインの持ち込みをできるレストランでも、予約時に伝えないと受け付けてくれない場合もあるので注意してください。
また誕生日や結婚記念日などに利用すると、特別のサービスをしてくれるレストランもありますので、『誕生日の記念に利用したいのですが、何か特別なサービスはありますか?』と聞いてみましょう。大きなケーキを別途注文する場合は追加料金を取られますが、小さなケーキ、食前酒、食後酒、記念写真を無料でサービスしてくれるレストランもあります。
このように事前に積極的にレストランとのコミュニケーションを取っておくと、利用当日に気持ち良くレストランを利用することができます。せっかく高いお金を払うのですから、レストランのサービスを予約時からフルに活用しましょう。

なおフランス パリのミシュラン三つ星レストランを予約する場合、最低でも一ヶ月前に予約しないと席が確保できないのが普通(ランチは余裕があるようです。)ですので、日本から予約してください。直接レストランに電話またはFAXをするか(FAXの方がドキュメントが残り確実ですし、通信費も安くてすみます。この場合、滞在先のホテル名を記載しておきましょう。)、著名なレストランならクレジットカード会社、旅行会社等で予約代行してくれます。
なお席数の少ないミシュラン三つ星レストランを予約した場合、事前に予約の再確認が必要な場合があります。パリのミシュラン三つ星レストラン アルページュを日本から予約した時に、利用当日、滞在先のホテルに予約の再確認をして欲しい旨のメッセージが届けられました。この場合、現地でレストランに電話をかけて再確認をしてください。

当日の服装ですが、男性の上着、ネクタイ着用を義務づけている最高級レストラン(銀座 マキシム・ド・パリなどのグランメゾンクラスのレストラン)では、真夏でもそれに従うことになります。スーツやブレザーを着て、ネクタイを着用すれば全く問題ありません。女性の場合、エレガントなデザインのワンピースかスーツになるでしょう。できれば服装を指定していない高級レストランでも、男性は上着くらいは着用しましょう。
最近はどの高級レストランもカジュアル化していますので、服装を指定していなければ、冬はセーター、夏はポロシャツでも構わないのですが、服装に関しては義務と考えるより、ドレスアップすることを楽しんだ方が気分がいいものです。フレンチレストランはそのためのおしゃれな舞台です。高級レストランなら、いつものビジネススーツはやめて、他のスーツかブレザーに、ワイシャツをおしゃれなものに、ネクタイを普段は使わないボウタイに、ポケットチーフをつけ、靴もいつものビジネスシューズを履き替えて、おしゃれなものに変えてみましょう。

最高級レストランで皆がドレスアップして食事すれば、レストラン全体の雰囲気が良くなり、気持ち良く食事が楽しめます。但しドレスアップしても、宮中晩餐会ではありませんので、かしこまってばかりいると、せっかくの食事が楽しめませんし、堅苦しく感じて、『もうフレンチレストランに行くのはご免だ。高いし、居酒屋の方がいい。』ということになってしまいます。最高級レストランだからといって、特殊なルールはありませんので、リラックスして、料理、会話、雰囲気を十分楽しんで、優雅で素敵な時間を過ごしてください。中級レストランなら、豪華なインテリアではないかもしれませんが、料理に力を入れている場合が多いので、カジュアルな服装で、フランス料理を堪能してください。


入店する

レストランに入って名前を告げれば、高級レストランではレセプション(フロント)で手荷物、コート等を預かって予約リストをチェックしてくれるはずです。レセプションを特に設けていないレストランでは、一般的にはメートル・ド・テル(略してメートル、詳しくは後述参照)が、こじんまりしたレストランではマダムが受け付けてくれて、席に案内してくれます。オーナーシェフのレストランでは、夫がシェフ、妻がマダムの場合が多いので、わからないことがあれば、マダムに気軽に相談してみましょう。
高級レストランの場合、ダイニングルームにすぐに案内しないで、食卓の準備が整うまでウェイティングルームに案内してくれる場合もあります。ウェイティングルームでは食前酒を楽しんだり、メニューやワインリストをじっくり見ることができます。食事前の優雅なひとときを楽しみましょう。

なお最高級フレンチレストランでは、サービススタッフは一般的に以下の階層に分かれていて、服装も異なっています。
 ディレクトール
レストランの支配人ですが、お客様の送り迎えなどのサービスを担当することもあります。
 メートル・ド・テル
日本語では給仕長、英語ではフロアマネージャーと訳され、フロアのサービスを取り仕切ります。
 シェフ・ド・ラン
実際にテーブルの配膳を担当します。
 コミ・ド・レストラン
直接お客様のテーブルに配膳せず、シェフ・ド・ランの補佐をします。
その他に、ソムリエ(今更説明するまでもないですが、ワインだけでなく、レストランのすべてのお酒の管理、サービスを担当します。)、受付係(英語ではレセプショニスト)などのスタッフがいます。
フレンチレストランのサービススタッフとして、ギャルソン(日本語では給仕人、英語ではウェイター)という言葉がよく使われますが、高級フレンチレストラン以外のレストランやビストロでは、シェフ・ド・ラン、コミ・ド・レストランを区別しないで、一般的なサービススタッフの呼称として、ギャルソンを用いる例が多いようです。
フランスの高級レストランでサービススタッフを呼ぶ時は、「ギャルソン!」と呼ばないで、「ムッシュ(Monsieur)!」、女性なら「マダム(Madame)!と言ってください。


席につく

ダイニングルームに入る場合、基本的なマナーとしては男性が先に入り、女性が後から続きます。入店する場合も同じです。これは女性だけでレストランに入れなかった時代の名残りのマナーです。但しこれはフランスでのマナーの話しなので、日本ではレディ・ファーストで勿論構いません。テーブルに着くと、座る位置の椅子を引いてくれるので、女性が先に座ります。女性の方が壁を背にして座るように、配慮してくれるはずです。

座る位置のテーブルには、プレゼンテーションプレート(ショープレート、サービスプレート、位置皿、飾り皿とも言います。この上に料理を置く場合と、すぐに片づける場合と、レストランにより違いがあります。)、ナプキン、カトラリー、グラスが人数分用意されています。テーブルのナプキンをいつ取ったら良いか迷う人がいますが、飲物や食事が配膳されるまでならいつ取っても構いません。高級レストランによっては、着席するとナプキンを膝にかけてくれることもあります。ナプキンを取るタイミングについて堅苦しく考える必要はありません。食前酒が運ばれてくるなと思ったら、膝に二つ折りで(折り目は膝側にした方がナプキンの内側で口を拭うことができてエレガントです。)置くのがスマートです。

席につくと、ほどなくして、『お食事の前に何かお飲物はいかがですか?』と食前酒(アペリティフ Aperitif 食欲促進酒の意味です。)が必要か聞いてきます。特に必要なければ注文しなくても良いし、食前酒を楽しみながら料理のメニューを見たいのでしたら、お好きな飲物を注文しましょう。なお通常食前酒のメニューはありませんので、
フレンチレストランの飲み物についてを読んで、代表的な食前酒の名前を覚えておきましょう。
食前酒の注文の後に、料理のメニューが運ばれてきます。高級レストランにカップルで行った場合、女性には料金表示のないメニューを渡す場合があります。エレガントな配慮ですが、夫婦なら家計を圧迫しないためにも、料金を確認し合いましょう。交際中のカップルなら、同伴の女性が高額の料理を注文しないように、会話でうまく誘導する駆け引きを楽しむことができます。キャビアやトリュフをふんだんに使った料理には特に注意しましょう。逆に女性の場合、相手の懐具合に配慮する人は、キャビアやトリュフをふんだんに使った料理を避け、相手の懐具合を全く気にしない人は、男性の意見はさらりと聞き流して、食べたい料理を注文しましょう。


メニューを見て料理を注文する

アラカルトしか用意していない場合、コース料理しか用意していない場合、アラカルトもコース料理も用意している場合があります。通常コースの料理はアラカルトと同じ料理であっても、分量(ポーション Portion)を小さくしているはずです。レストランは基本的にディナーを食べるところですから、アラカルトがあるからといって、前菜1品だけ頼んでおしまいということはできません。最低でも前菜と主菜(魚・肉などのメインの料理)、前菜2品、主菜とデザートの組み合わせで注文しないといけません。
アラカルトは前菜(アントレ Entreeまたはオードブル Hors−d’ouvre)、魚料理(ポワソン Poissons)、肉料理(ヴィヤンド Viandes)、チーズ(フロマージュ Fromages)、デザート(デセール Desserts)の順に分けて書かれているのが一般的です。またサラダなどの野菜料理(Legume)を別に設けている場合もあります。

コース料理の場合、料金によって品数が異なるコースがいくつか用意されていると思います。別に一番低価格のコースを注文しても恥ずかしいことはありませんので、お腹の具合と料理の内容を考えて、お好きなコースを注文してください。通常コース料理の場合、デザート、食後の飲物は含まれますが、チーズは含まれない場合が多いようです。日本では少ないですが、一品が小さく品数が多いムニュ・デギュスタシオン(Menu degustation)と呼ばれるお試し用(といっても安いわけではありません。)コースが用意される場合もあります。
またプリフィクスと呼ばれる、前菜、魚料理、肉料理、デザートを、決められたいくつかの料理の中から選んで注文するコース料理のスタイルを取っている場合があります。パリのビストロによくあるムニュ(Menu 定食)も同じスタイルです。
正式なフルコースは、アミューズ・グール(軽い前菜でメニューには載っていない場合が多い。喜ばせる一口の意味です。 Amuse−gueule)、前菜(二品以上の場合もあります。)、スープ、魚料理、グラニテ(お口直しの氷菓 Granite)、肉料理、サラダ、チーズ、デザート(アヴァン・デセール Avant dessert という本来のデザートの前に、軽いデザートがもう一品出る場合もあります。)ですが、アラカルトで注文する場合、前菜から一品、メインの魚か肉料理(主菜)から一品、チーズかデザートを選んで、普通の人には充分な量になるように配慮してあるはずです。なお通常チーズとデザートはメインの料理が食べ終わった後に注文します。但し調理に時間がかかるデザートが多い場合、最初に決めてもらうことがあります。

料理を選ぶ場合、味は軽いものから重いものへが基本ですが、前菜でフォラグラのポワレのような重たい料理もありますので、あまりこだわらないでも良いと思います。ただフランス料理の場合、料理に使われるソースが前菜、主菜とも同じようなものですと味の変化が乏しくなりますので、アラカルトで注文する場合注意しましょう。メニューを見ただけでソースがどんな味かわからないようでしたら、積極的に聞きましょう。
コース料理の場合、料理が決まっている場合が多いですが、レストランによっては料理を変更できる場合があります。追加料金を取られることもありますが、アラカルトに好きな料理があったなら、変更できるか相談してみましょう。
またカップルで行った場合、親しい間柄ならお皿の交換をすることを前提にして、料理を決めるのも悪くありません。お皿の交換はみっともないと考える人は、レストランによっては料理をシェアしてくれることもあるので、相談してみましょう。

サービススタッフといろいろ相談してみると、そのレストランのサービスのレベルがわかってきます。レストランのサービススタッフにとっても、お客とのコミュニケーションは刺激になるはずですので、料理、ワイン、テーブルウェアなどについて質問したりして、積極的に話し掛けましょう。結婚披露宴ではないのですから、ただ漫然と腰掛けて料理が運ばれてくるのを眺めるのではなく、積極的にサービススタッフと会話を楽しみ、素晴らしいひとときを作ってください。フランス料理への理解もずっと深まってきます。
レストランによっては大半の人の食事が終わってくると、シェフがダイニングルームに挨拶に回ることがあります。この時も料理に関する質問や感想を話すと、フランス料理への理解が深まります。積極的にこの機会を利用しましょう。なおシェフと話をするのは楽しいですが、厨房のトップで料理に対して全責任を負っていますので、挨拶に来ないからといって、サービスの悪いレストランと考えないようにしてください。厨房のスタッフが少ない低価格のレストランでは、シェフが挨拶に行きたくても行けない場合があるのですから。一般的にオーナーシェフのレストランでは、自分のレストランのファンを増やしたいので、挨拶にくる場合が多いようです。


restaurant ワインリストを見てワインを注文する

料理を注文すると、ソムリエがワインリストを持ってきて、ワインの注文を取りにきます。ご自分で料理との相性や味の好みがわかっていて、注文したいワインがリストにある場合は何の問題もありません。
ワインリストを見ても何を注文したら良いかさっぱりわからない場合は、希望する価格帯で、以前飲んでおいしかった銘柄(ワインリストになくても)を教えて、今日の料理との相性を聞いてみると良いと思います。
頭のいいソムリエなら、この人はどのクラス(価格帯)のワインをいつも注文しているのか、味はどの傾向のものが好きなのか直ぐに察するはずです。
これなら同伴の女性の前で『いくらぐらいのワインでお願いします。』と言わないですみますし、全く好みでないワインを注文するリスクも避けられます。以前飲んだ、おいしかった銘柄も思い出せないようでしたら、ワインリストで希望する価格帯のワインを指差して、注文した料理との相性を聞いてみましょう。優秀なソムリエなら同じ価格帯で料理と相性の良い銘柄を選んでくれるはずです。

あまりワインを飲んだことがないのに、女性の前だからと見栄をはって、本で聞きかじったボルドー・メドック地区と優良年の90年の名前を出して、『メドックの90年のワインなんかどうですか?』などと言うと、ソムリエの好奇心を刺激して、『サンテステフにしますか?それともポイヤック?ビンテージは88年ではいけませんか?』という突っ込んだ質問が返ってきて、墓穴を掘ることになるので注意しましょう。相手はプロですから、飲んでいるワインの品種の多さ、味、香りの訓練に素人は簡単には太刀打ちできません。ソムリエと張り合うのではなく、ソムリエの知識を利用しておいしいワインを飲むことが大切です。
以前飲んだワインの味と少し味の異なるワインを飲みたいときは、『もう少しタンニンが強い方がいいのですが。』、『もう少し軽くて、フルーティな方がいいのですが。』などのコメントを付け加えれば、ソムリエはあなたの希望する味のワインをセレクトしやすくなります。
セレクトしたワインによっては、デキャンタージュ(簡単に言うと、専用の瓶でワインを空気に触れさせて、風味や香りをより引き立たせます。また古いワインの場合、瓶の底にたまったワインの澱を取り除きます。)した方がおいしくいただけるので、デキャンタージュするかどうか聞かれたら、ソムリエにその判断を任せましょう。フルボトルを頼んで、初めから全部飲みきらないで、残りを持ち帰るつもりなら、ボトルの半分位とか指定してデキャンタージュを頼んでも構いません。


食事を楽しむ

料理、ワインの注文が終わったら、後は運ばれてくる料理をワインと一緒に楽しむだけですが、いくつか覚えておきたいことを書いておきましょう。
テーブルマナーに関しては、いろいろな本が出版されているので、詳しくは本を参考にしていただきたいと思いますが、考え方の基本は、その振る舞いが人から見てエレガントかどうか ということです。優雅に余裕を持って食事を楽しむために、この言葉を頭の片隅に入れておいてください。ただあまり堅苦しく考えては、せっかくの食事が楽しめませんので、『食べる時に音を立てない。』、『カトラリーは外側から使っていき、食事中にカトラリー使わない時は、カトラリーをお皿の上にハの字に置く。』、『食べ終えたら、カトラリーをお皿の右側から中央下の間に並べて置く。』、『食事中に席を立つ時は、ナプキンを椅子の上に置く。』、『食事を終えて席を立つ時は、ナプキンをテーブルの上に、きちんと折り畳まないで置く。』など常識的な事を守れば、特に大きな問題は起きないと思います。カトラリーを床に落としても交換してくれますので、心配することはありません。サービススタッフが気がつかない時は、呼べば交換してくれます。

  アミューズ・グール(アミューズ・ブーシュ、単にアミューズともいいます。)
中級レストラン以上では、最初にアミューズ・グールが運ばれてきます。アミューズ・グールは基本的にレストランのサービスなので、アラカルトで注文した人でもサービスされます。居酒屋でお酒を頼んで出されるお通しのように追加料金は取られません。サービスなのでアミューズ・グールを出さないレストランも勿論あります。

  テーブルセッティングとカトラリー
一般的には席に着くと、席の真ん前にプレゼンテーションプレート、プレゼンテーションプレートの上か左にナプキン、右手にナイフ二種類(前菜用、主菜用)、左手にフォーク二種類(前菜用、主菜用)、左手奥にパン皿、バターナイフ、右手奥にグラス二種類(水用、ワイン用)がセッティングされています。コース料理しかないレストランでは、そのコースの料理内容に合わせて、最初からカトラリーをフルセッティングしている場合(例えばスープスプーンなども加わります。)もあります。
フルセッティングしていない場合は、料理を注文した後か、前菜と主菜の間などで、注文した料理に応じて、カトラリーの数を調整します。その時魚料理を注文した場合、フィッシュナイフに交換したり、ソースの多い料理の場合、ソーススプーンを追加したりします。また高級ワインを注文すると、ワイングラスも『リーデル』などの、高級ワインを飲むのにふさわしいグラスに交換してくれることもあります。
基本的にカトラリーは外側から使っていけば問題ありません。ソースをぬぐうのに間違えてスープ用のスプーンを使ってしまったり、手で食べるアミューズ・グール(カトラリーを用意して食べるような本格的なアミューズ・グールもあります。)を前菜用のナイフ、フォークを使って食べてしまっても、必ず補充してくれるので、あわてる必要はありません。手で一口で食べられるようなアミューズ・グールやプティフールでも、フィンガーボールを用意してくれる親切なレストランもあります。

  パンのサービス
パンは一般的にアミューズ・グールと前菜またはスープの間にサービスされます。出されたらすぐに食べてかまいません。日本ではよく前菜が終わり、スープがサービスされてからと言う人がいますが、そういうルールはありません。フレンチレストランでは基本的に食べるタイミングに合わせて、パンや料理がサービスされます。(このように一品、一品、食べるタイミングに合わせて、温かい料理をサービスする方法を『ロシア式サービス』といいます。『フランス式』ではありません。)またお替りも自由(ビストロのような安いレストランでは追加料金を取る場合もあります。)です。
但しパンはあくまで料理をおいしく食べるための引き立て役です。お替り自由だからといって、パンでお腹をいっぱいにしては、せっかくの料理が楽しめません。
またフランス料理はソースがおいしいからと、パンでお皿をきれいにぬぐう人がいますが、見た目にエレガントでないので、高級レストランでは控えたほうが無難でしょう。中級以下のレストランなら、その限りではありませんが。親切なレストランではソース・スプーンを用意してくれることもあります。但しソース・スプーンを用意してくれたかと言って、ソースだけを舐めることは厳禁です。お肉や魚と一緒にソースをたっぷりすくって食べてください。

  お皿(料理)の交換
古いテーブルマナーの本では、お皿の交換をしてはいけないと書いてありますが、宮中晩餐会やフォーマルなディナーならともかく、高級レストランでもお皿の交換をして、相手の料理を楽しんでも構わないと思います。但し自分たちでお皿の交換をするのは、カトラリーが落ちてしまったり、これも見た目にエレガントでないのでやめましょう。サービススタッフを呼んで、『お皿を交換したいのですが。』と言えば、交換してくれます。相手が使ったカトラリーを使いたくない時は、新しいカトラリーに交換してもらうように申し出ましょう。原則としてビストロのようなカジュアルなレストラン以外では、小皿に取り分けて食べてはいけません。料理をシェアしてもらえるなら、この方がスマートでエレガントです。料理を注文する時にスタッフに相談しましょう。

  ワインのサービス
ワインをボトルで注文した場合、最初にソムリエがセラーから注文したワインを持ってきて、ラベルを見て確認を求めますので、銘柄とヴィンテージを確認してOKを伝えます。間違えて持ってくることはありませんが、筆者の場合、一度だけヴィンテージを間違えて持ってきた経験があります。
次にコルクを抜いて、ソムリエが最初にテイスティングしてから(しないこともあります。)、そのテーブルのホストと思われる人のワイングラスに少し注ぎますので、テイスティングしましょう。ホストはワインの色・濃度、香り、味の順にチェックするのですが、詳しいテイスティングのやり方を知らなければ、香りを嗅ぎ、口に含んで味を確かめ、ソムリエにOKを伝えれば、それで充分です。明らかにカビ臭がしたり、酸化して、酸味がきつすぎて飲めないような異常がない限り、ワインの交換はできません。
食事中のワインのサービスですが、ワイングラスが空になっても自分で注いではいけません。相手に注いでもらうのも禁止です。サービススタッフが空のワイングラスに気づくまで待つか、呼んで、テーブルにワイングラスを置いて注いでもらいます。但しビストロのようなレストランではサービススタッフの人数も少なく、空のグラスに気がつかないことも多いので、その場の状況で判断してください。
なおボトルでワインを注文した場合、ラベル(仏語でエチケット Etiquetteといいます。)を剥がしてもらい記念に持ち帰りましょう。サービススタッフに申し出れば剥がしてくれ、中級レストラン以上なら専用のシートに貼ってくれます。ワインのコルクも記念に持ち帰り、レストラン名と日付などを書いておけば後々の思い出になります。
また飲み残したワインも持ち帰れるので遠慮しないで申し出ましょう。ただワインは栓を抜くとすぐに酸化が始まり、味が変化しますので次の日には飲んでください。デパートなどのワイン売り場などで売っている瓶の空気を抜く用具を、家に帰ってすぐに使えば、4〜5日位はそれほど味の変化はありません。

  フロマージュ(チーズ)
メインの料理を食べ終えると、通常はコースに含まれていないフロマージュの注文を聞きに来ます。フロマージュの用意がありながら、注文を聞きに来ない場合も、たまにありますので、食べたい場合は聞いてください。勿論お腹もいっぱいで特に好きでなければ断ってかまいません。
ただレストランのフロマージュはいろいろなタイプのフロマージュを試す絶好のチャンスでもあります。もしフロマージュに興味があって、2,000円以内で好きなだけ自由に食べて良いなら、試してみる価値はあると思います。最近はデパートの食品売場に、たくさんのフロマージュが並んでいて試食もさせてくれますが、一部に限られますし、分量も多く買わなければならないので、たくさんの品種のフロマージュを試食できません。
フロマージュを頼んだら、サービススタッフにおいしかったフロマージュの銘柄を聞いておきましょう。フェルミエのような、レストランにフロマージュを卸していて、一般の人に小売りもしている業者に問い合わせれば、手に入る方法がわかるかもしれません。
なおフロマージュを選ぶポイントはワインとの相性です。フロマージュのためにグラスワインを頼んでも良いですが、赤ワインを一杯残しておくのが賢い方法です。

  デセール(デザート)
内容が決まっていて、厨房で仕上げた皿盛りのデセールの場合は別ですが、ワゴンから好きなデセールを選んで、お皿に盛り付けてもらう場合、お好きなものをお好きなだけ注文できますので、遠慮なくサービススタッフに希望を伝えましょう。この時付け合わせのフルーツやソースも自由に選べる場合があります。但しビストロのような安いレストランでは、選べる品数を制限したり、ソースを用意していない場合もあります。

  食後の飲み物
食後の飲み物としては、エスプレッソ、コーヒー、紅茶、ハーブティー(アンフュージョン infusion とも言います。煎じ茶の意味です。レストランによってはフレッシュハーブティーを使っている場合があります。またハーブのブレンドを指定できる場合もあります。)などが選べます。高級レストランではおかわり自由なはず(たまにせこく請求する高級レストランもあります。)なので、物足りなければおかわりを注文しましょう。
なお日本のレストランではコーヒーなどはコース料金に含まれる場合がほとんどですが、フランスのレストランでは、コース料理でも飲み物はすべて(コーヒー、ミネラルウォーターなども)別料金となるのが一般的です。

  プティフール(Petits fours 小菓子)
プティフールはアミューズ・グールと同じで、食後の飲み物を注文した人へのレストランのサービスです。そのためメニューには載っていませんし(コース料理のメニューには載っていることがあります。)、サービスされないこともあります。小菓子なのでそれほどの量はサービスされませんが、お腹がいっぱいで食べられない時は、レストランによっては持ち帰りにできますので、サービススタッフに申し出てみましょう。

  食後酒(ディジェスティフ Digestif 消化促進酒の意味です。)
プティフールを食べながらコーヒーを飲み終えると、『食事の後に何かお酒でもいかがですか?』と聞いてくることがあります。日本では食後酒までたしなむ人は少ないですが、フランスではかなりの人が注文し、シガールームへ行ってシガーをくゆらせながらディジェスティフを楽しむ人もいます。とても優雅な習慣ですが、帰りの電車を気にしなければならない大多数の日本人には、そこまでの余裕はなかなかないでしょう。
食後酒はブランデーやリキュールなどのアルコール度数の高い飲み物が主流ですので、帰りがおぼつかなくなっている人は頼まない方が無難です。なお食前酒と同様に、通常食後酒のメニューはありませんので、注文したい人は、フレンチレストランの飲み物についてを読んで、代表的な食後酒の名前は覚えておきましょう。

会計して出店する

食事がすべて終了したら、後は会計して出店するだけです。サービススタッフを呼んで明細書を持ってきてもらいましょう。明細書に間違いがないかチェックし、支払いは席で行います。明細書を持って入口に行く必要はありません。
支払いがすめばレセプションに預けた荷物を受け取るのを忘れないようにして帰途についてください。高級レストランなら出口までていねいに送ってくれ、優雅な気分で出店できるはずです。
会計ですが、食前酒、フロマージュ、食後酒も頼むと、結構な金額になるので注文を出すときはこのあたりも考慮しておいてください。レストランによってはミネラルウォーター(明細書に、Eau minerale またはミネラルウォーターの銘柄を書くこともあります。)、パン(Pain)、バター(Beurre)代を別途請求する場合がありますので注意が必要です。料金の他にサービス料(通常は10%ですが、店によっては12%位取るところもあります。)、税金も加算されますので、明細書のチェックは慎重に行ってください。料金に不審なところがあれば、遠慮なく聞くべきなのは言うまでもありません。
なおフランスのレストランの場合、通常料金には税金とサービス料が含まれていますが、高級レストランでは合計金額の10%弱位で、切りの良い金額のチップを置いた方が良いでしょう。但し不快な思いをしたなら払う必要はないと思います。クロークには2Euroも渡せば十分です。


カジュアルなイタリアンレストランばかり利用しないで、
たまにはドレスアップしてフレンチレストランの扉を開いてみませんか?

美食の空間に新鮮な味と驚きを発見すると思います。


それでは、Bon Appetit !!




   
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